3.胸がこわれそう

このアルバムでは唯一の重厚なブルースロック。
また、後期までライブレパートリーとして生き残った本アルバムからほぼ唯一の曲。
この曲に限ってはマーク・テイラーのピアノもいい具合のスパイスとなっており、パブロックとしてのBJCというのも夢想出来る。
ライブではこの軽やかさは無くなり、歌詞にマッチしたヘビーさを湛える。
いなくなった彼女の置手紙を1番、彼女との思い出を2番に配する歌詞構成のセンスは所謂邦楽的ではない。
さらに言えば、インパクトあるタイトルの言葉を本編歌詞で一切使用しない、というのも実にクール。
また「底のない真暗な/空間を高速で落ちて行くような/快感に」しか「生きてゆく全ての理由が」見出せないという
「彼女」の置手紙はVelvet Undergoundといったウォーホルのファクトリー界隈や、後のグラムロックにも似た退廃の匂いを強く放つ。
このような退廃的な性、といったテーマは平和の人的な捉え方も一部されてしまっているかもしれない、今のベンジーには似合わないようだが、BJCの魅力の一つだ。


その歌詞を誘発した曲を作ったのは、粘りつくようなベースリフ(この録音ではユニゾンのピアノにかき消され少々インパクトを失っているが・・・)で曲を引っ張る照井。
照井の作る曲はブルースっぽい曲想のものと、ベンジーより明快なメロディーを持つものとがあるが、この曲は前者の代表。後者の代表は5曲目に出てくる。

2.僕の心を取り戻すために

この曲のスピード感は半端ない。BPMとしてはもっと速い曲もあるかと思うが、演奏の緊張感とあいまって(特にライブにおいては)BJC最速ナンバーの印象がある。
崩壊ギリギリのところで演奏されるライブヴァージョンは『LIVE!!!』に収録される。
旅立ちの理由を「僕の心を取り戻すために」と言い放つ。他に歌われる情景は既に後年多用するビジュアルイメージ(何処の国かを特定しない、荒野のような土地)を想起させる。
さして大きな意味を歌ってはいないのに、この曲が魅力的なのは、本領発揮となる3人のバンドサウンドに由来していると思う。
特に達也のドラムは既に幾つかのパンクバンドで鍛え上げられてきた経験と、本人の本能的な部分に支えられ、聴く者の耳を奪い続ける。
ベンジーの高音弦の2〜3音の和音でシンコペーションするフレーズを組み立てる奏法はその後ずっと多用されるが、曲の緊張感を高める素晴らしい発明だと思う。


ベンジーのがなるような歌唱はこの曲のみならず、『C.B.Jim』あたりまで聴かれるが、この歌い方がこのアルバムの音源を何処にも再収録しないという結果を引き起こす要因の一つになったのでは?と『The Six』収録ヴァージョンを聴くと思う。

1.CAT WAS DEAD

記念すべき1stの1曲目、歌いだしが「猫が死んだ/僕の大事にしていた仔猫が」という衝撃。
ベンジーの詩作に慣れてしまった今となっては判りにくいが、ここで初めて耳にした人には衝撃以外の何物でもないだろう。
それも捻って、露悪的に出してきた言葉ではなく、あくまで必要な自然な歌詞として歌われている衝撃。
上に書いた、強面のヴィジュアル、その中身が「大事にしていた仔猫が」死んで「どうして悲しいんだろう/涙が落ちてゆく/寒い空の下」。
昔から(?)不良といえば、純粋さを持っているがゆえ、のように語られ(描かれ)ているし、おそらくそういうイメージって永遠なんだろうけど、ここでさっぱりとその純粋さを曝け出してしまう、ある意味では無防備さ、おそらくはそれすらも純粋さ。
こういった部分がブランキーが多くの人に支持された所以だと思う。
ベンジーの歌詞の特徴的な要素として、ここで既に見受けられるのは、「解決しなさ」だろう。
後々の曲では歌詞の後半にオチやら結末が待っている場合があるが、いずれにせよ、歌われている感情に解決はない。
この歌の「僕」も、どうして悲しいのかを自問するのみで、それになんら答えや決着を付けることはない。
様々な人間の感情や世界の不条理やらを題材にしつつも、そう簡単に解決させることなく次の感情や生活に流れていく。
ベンジーの歌詞/ブランキーの魅力を語る上でこの辺りも無視できないと思う。


挑発的で重厚なイントロから軽やかで切なげなロカビリーサウンドへ。
ヴィジュアルイメージ通りのネオロカ系のサウンドではあるが、ベンジーのグレッチは後のアルバムでの生々しさとはかけ離れた如何にも90年代初頭な音処理が(特にバッキングのコードリフ)行われており、達也のドラムもスタジオの天井で聴いている様な気になる、ミックスである。
イントロのギターソロのフレーズは既にディミニッシュの使用を交えたロカビリーリックから発展した所謂ベンジー風のスケールで成立している。


彼ら自身、始まりの歌、と認識していたかどうか知らないが、後に横浜アリーナでの解散公演最終日の一曲目に演奏され、DVD版『LAST DANCE』に収録されている。(ちなみに初日は「★★★★★★★」、フジロックでの最終ライブは「プラネタリウム」)

『Red Guitar and the Truth』

Red Guitar and the Truth(SHM-CD)

Red Guitar and the Truth(SHM-CD)

『BANG!』が後に控えていることはいかにも分が悪い。しかし、後にメンバーや関係者が無視しようとも、無視できないデビュー盤。
3人が揃い、早々に「イカ天」でデビューのチャンスを掴んでの初録音。
音作りに対する不満はおおよそプロデューサーのジェレミー・グリーンへの非難となっているのであろうが、このアルバムで真に重要なのは、既にブランキーの演奏やら曲想やらが完成していることだ。
結成から1年未満ということを考えると(更にメンバー間好きな音楽は共通・共有しているが、その幅の広さも考えると)多分に驚異的である。
「何々みたいな感じでやろう」ということで始めているならば、早々にこの完成度はない。
ベンジーと照井の作曲の段階で後まで繋がる所謂ブランキーの曲想、になっており、録音に入る前のヘッド・アレンジの段階で既にブランキーの演奏、になっていたのであろう。
ジェレミー・グリーンはそこに深いエコーやキーボードやらを加え、無神経気味なミックスで音圧の迫力を削いだけで、音楽の表層を触っただけでしかない。
それだけに、このアルバムの軽視は悲劇でもある。


ジャケットはリリース当時としては時代錯誤的、長いタームで見ればイカツさの象徴のようなレザー、長髪。
内ジャケットには刺青バリバリの上半身裸の写真が掲載されており、デビューシングル「不良少年のうた」のタイトルそのままのイメージで売り出そうという気迫が感じられる。
但し、悪さを売りにしたアイドル、といった感じの打ち出しで女性ファンへの売りにも答えられるようなプロダクトになっている。
初回盤はデラックスパッケージ。
上に掲載のSHM-CD再発は初回仕様どころか、通常版のブックレット封入すらない酷い代物(その仕様は一連のSHM-CD再発全てにおいて)。音は多少明快になったが(とはいえ、リマスターはされてないので過度な期待は禁物)、決定版として認められるレベルのプロダクションで出して欲しかった。

Blanky Jet City 全曲解説

ブランキー元メンバーの最新作、浅井健一スフィンクス・ローズ」は、解散後数年以降久々の素晴らしい作品であった。
レコーディングアプローチが変わった、とか、背後にある金銭の動きとか(申し訳ないがベンジーのここ数年の活動を考えることはそれと切り離しては語れないと思う)、色々あるだろうけど。
それでもブランキー時代と同質の胸騒ぎを引き起こさないことに変わりは無い。


何が違うのか?


今年、ブランキーの未発表ライブと一部の未発表曲を盛り込んだ編集盤が発売され、
カタログが(愛情の無い仕様だが)SHM−CDで再発され、
ミュージックマガジンの表紙を飾った。
ここにきて、再評価の兆しがあるといえるだろう。
それはおそらく、リアルタイム世代に根強いヤンキー気質/不良の価値観と離れたところで。


ベンジーがユダやソロでブランキーの曲を歌い始めて早幾年月、
照ちゃんがヘビーなロックから離れて幾年月、
達也がブランキー時代には想像できない即興界の大物達とつるみ始めて幾年月。
そろそろブランキー・ジェット・シティーというバンドを冷静に見つめてもいいのかもしれない。


以降に綴るコメントは、かつてジェット・シティーの住人だった者が
それから10年を経た今、改めて彼らの音楽を聴いた言葉だ。
好きだっただけに(人生だったとも言える)辛辣な言葉も出るだろうが、御容赦願いたい。

 人のセックスを笑うな/井口奈巳

人のセックスを笑うな (河出文庫)


前評判って、ほんと漠然としたものしか耳に入れたらいけないような気がして。
「生々しい恋愛」みたいな、よくある常套句で話題で
しかも客入りまくりで、
今まで2回入れなくて3度目の正直な本作、
我が信頼する井口奈巳がどんな路線に挑戦したのか?と思いきや、
いい意味で変わらず、
『犬猫』の私の好きなカンジ、それをそのまま維持していて、
なんだかなー、心地いいなぁ、
という感じで素晴らしく良い映画時間を過ごせた。


しかし、あれだ、
この人、何でこんなに素敵に女の人を撮ることが出来るのだろうか。
『犬猫』の小池栄子は蓮実先生も指摘してたけど、
同じく榎本加奈子藤田陽子も、他のどのメディアで見るよりも魅力的でした。
でもって、本作、
永作がほんと素晴らしく可愛らしくって、
こんなヤじゃない魔性の女(なのか?)、
見たこと無いです。
というより、この人、ちょっとこういうとこあるんだよねー、で許させてしまって生きてきた
みたいな、可愛さです。
で、永作がスクリーンからはけると、今度は蒼井優の女の子性が俄然浮かび上がってくる。
こんな生き生きとしてる蒼井優、久々に見たよ。
2人ともとても魅力的で、
しかも複数男女出てくる恋愛映画にありがちなウェットなウザさが排除されている。
当然の成り行きだと思うけど、本当に素敵だと思う。


それにしてもアトリエでの永作と松山ケンイチのシーンは、
生々しくてドキドキしちゃうね。
なんか、相手の息とか唾液の匂いとか。
温度とか肌の感触とかが。
多分劇場の観客全員の脳裏に渦巻いてたと思うよ、笑。
あと、優ちゃんの好きなシーンは、
忍成修吾を背中で押し返すとことキスされて照れるとこ。
観覧車のシーンとラブホのベッドで飛び跳ねるシーンはいわずもがな。


あとは、細部に変な思い入れを抱いてしまうのも相変わらず。
ファースト・シーン、ガードレールに絡まっている黄色い風船に始まり、
エア・マットを膨らまそうとして、
次には校舎の高さくらいの風船を膨らます。
風船じゃないけど、凧も映っていた。


横切る野良犬。
蒼井優がおでこで壊すバックミラー。
リトグラフのマシン。
映画館の灰皿。
ファミレスの窓の外のロバ。
永作の下着。
鼻についたインク。
顔面に当たるマフラー。
オー、イエス
招き猫。
石油ストーブ。
最後の最後でインクの出ないペン。
信玄餅の包み紙。
半田付けされた携帯。
展覧会のお菓子。
バックする軽トラ。
怒って膨らむ鼻の穴。
松山ケンイチの乗りツッコミ。
こたつの穴。
飯を喰う猫。
ラブホテルから一人で帰る朝。
学校の屋上。


永作と蒼井優の、深夜の2人のシーンをみると、
私は本当にこの監督好きだなぁと思う。

2007年年間ベスト

*アルバム

1. Alicia Keys/As I Am

2. ゆらゆら帝国/空洞です

空洞です

空洞です

3. Brues Springsteen/Magic

マジック

マジック

4. M.I.A./Kala

カラ KALA

カラ KALA

5. Common/Finding Forever

ファインディング・フォーエヴァー

ファインディング・フォーエヴァー

6. Bennie K/The World

THE WORLD

THE WORLD

7. Sion/20th Milestone

20th milestone

20th milestone

8. 安藤裕子/Shabon Songs

shabon songs(初回限定盤)(DVD付)

shabon songs(初回限定盤)(DVD付)

9. Bryan Ferry/Dylanesque

ディラネスク

ディラネスク

10. UA/Golden Green

Golden green

Golden green


1:本当はゆら帝で首位は確定していた。が、しかし、これが出て、これを聴いてしまうと、これを1位にしないのは嘘偽り以外のなんでもなくなってしまう。前作と比べてどうなった、とか、曲ごとのレベルとかもう本当に語るのも不毛で、ただその声があればいい、という稀なる存在。本当に。Sadeの新作が出たりしない限り、彼女の新譜は一位、という面白くも無い現象が数年に一度訪れそうな気配。内容はまだまだ余裕の1枚という感じで恐ろしい。
2:という訳で、繰り下げになってしまったが、今年一番重要な作品であったことは間違いない(アリシアは私の個人的な感情の反映がでかいから)。少なくとも、日本のロックでここまでヤバいヤバい思ったのはZazen Boysの2nd以来。ロックの進化とかどうでもいいけど、ヤング・アメリカンを経由してマーヴィン・ゲイまで連想して悶えた。私の中で2007年を一番表す言葉は「空洞」です。
3:とにかく1曲目の王道マイナー4コードの名曲っぷりにもう太刀打ち出来ない。「Passenger」並み。多分、アルバム全体で、簡単に信用するな、手前が信じていいと本当に思うものだけを信じろ、と歌ってるんだと思う。どうしようもなさを知った上でのこの衝動はこれくらいのおっさんにしか歌えないよ。
4:とにかく晩夏はこれで頭グルグル。未だにもやもやしたら爆音でiPodから垂れ流しますな。でもClashをサンプルしたりと意外と芸が細かく感心。ライブは無茶苦茶アバウトだったけど、笑。でもって、可愛いーのな。
5:実は前作のほうが好きなんだが、相変わらずの安定した名盤っぷりで。ディアンジェロの名を見つけ喜んだりもしたが、ここでのカニエの仕事は相変わらず素晴らしく、彼の盤よりよっぽどこっち。コモンは私の中ではソウルシンガーに限りなく近い位置にいる。
6:今年の初夏はこれで頭グルグル。やりたい放題が下品じゃなく乙女の無邪気な遊びっぽいのが良き、で。応援歌っぽくても説教臭くないから良い。多分そういう偽りを凄く良く知っているんだと思う、この娘達。ラップの娘の「多分この娘はこの調子のまんま喋るんだろうな」という良い意味でのアバウトさも好きだが、何より歌う娘の声がやたら艶やかで色っぽくて、たまに無茶苦茶可愛くて、今日本で一番ドキドキさせてくれる声を持つ娘です。今年は一気に彼女達の旧譜を揃えてしまいました。
7:これはもう出来がどうとかじゃなくファンなんで・・・。また一生ものの歌達が増えてくれた。泣ける、グッとくる歌達が増えた。決定的に刺さる言葉達が増えた。彼が口にする言葉は私の思うこととか、思いたいこととか。彼が歌っていてくれることが何より重要。
8:実は前作の方が好きなのですが、「TEXAS」、この1曲でベスト10に入れないと失礼というもの。相変わらず愛らしさと大人っぽさを兼ね備えた永遠の少女大人。ナイーブさを隠せず、それ故強気、みたいな乙女性。でもって、可愛いのな。裏ジャケの写真は今年のベストジャケットです、笑。
9:ディラン関連が盛り上がりまくり続ける昨今だが、今年のそれを代表して。ていうか、当然シンプルなディランの作風が私の求める官能的なフェリーの音楽に100%合致するかどうかは微妙だったりするのだが。幾ら大好きな人が大好きな人のカバーをしたからといって1+1が2になる、もしくは1×1が1になるとは限らないのだが。でも「天国の扉」のグルーヴにイチコロにて。。。あと、「見張塔」はヘンドリックスver.より好きです。
10:別に実験的な歌を歌っていたUAも否定はしないし聴くけど、やっぱやって欲しいことはこれだった。「情熱」とは言わなくても、みんな彼女に「雲がちぎれる時」や「ミルクティー」や「2人」や「青空」や「スカートの砂」や「毛布もいらない」を期待しているんだ。で、彼女はそれに応える準備がやっと出来たんだ。と思った。「想像出来る」やってほしかった歌だから、「想像出来ない」やってほしかった歌を歌ったら。それを今は期待してます。


今年はやたら音楽を聴いた。本当は絶対ベスト10に入るはずなのに、正式には昨年発売の盤なので涙を飲んだのはPerfumeです、マジで、はい。次点はキップ・ハンラハンロバート・プラントアリソン・クラウス、カエターノのライブ、面影ラッキーホールCOCCOJay-ZDCPRG、ザ・バースディ、デヴェンドラ・バンハートと多数。入手しときながらまだ聴いていないものも多数で、ジョー・ヘンリー、二ール・ヤング、安室、シャーベッツ辺りはもったいなし。今年はルー・リード環境音楽だし・・・)、中島美嘉浅井健一カニエ、椎名林檎ボニー・ピンクは圏外。
本当に新しい音楽との出会いはPerfumeに集約されちゃってるみたいで何だか見た顔が並んでしまったのですが、もっと貪欲に色々聴いたところで顔ぶれはさほど変わらないだろうという気がする。ベテランの新作、長い付き合いの邦人歌手のなかに新手が数名、というのは変わらないだろう。そんな中でも色々面白がりたいなあ、と思う。
リイシューベストも作れるくらい色々買い込んだが、「オン・ザ・コーナー」BOXには気が狂うかと思った。バラでは持っている音源多数だが、あれだけまとめて聴くと・・・。相変わらず鼻血物のディラン関連やら、シャッグスの脅威の紙ジャケ、スライのリマスターやら、あんまりにも出る数が多すぎるのでブツを絞って盛り上がった。そしてツェッペリン関連の騒ぎはイマイチ乗り切れずであった。


映画は仕事になってからどうもだめで、殆ど見れていないのでランキング作成を自粛します。