5.TEXAS

照井作曲ナンバー2曲目。セカンドシングルでもある。
Am→Fを基調とした曲進行は緊張感のあるBJC定番の進行となる。
演奏はまるで銭湯の中でやっているような録音だが、非常に練られた演奏であり、本アルバムでも屈指だと思う。
その分、キーボードやワウギターが余計な気もするが、そういった向きには『LIVE!!!』収録の剥き出しの演奏を。
このスタジオヴァージョンはよりスケール感があり、後半を盛り上げる人声のようなシンセサイザーヴォイシングLED ZEPPELINの「Babe,I'm Gonna Leave You」を彷彿とさせる。
また、後に優れたアコースティックギタープレイを聴かせるベンジーのアコギサウンドが初めて聞ける曲でもある。
この人のこういったテンポの曲でのアコギのセンスは素晴らしいと思う。


何より「ハニー2人で廃墟を/駆け登り/夜のショーウィンドウで/盗みをしたね」のフレーズがかきたてる、懐かしさと切なさが混じった感情はなんなのだろうか。
BJCを愛する者というのはこういった感情から離れられない者達のことだと思う。
決してそんな過去を持ってはいないし、共有もしていないのだが、何かが切なく、懐かしくなるのだ。
ベンジーの描く歌詞の中で切なさをかきたてるのは主に、共有していない思い出だ。
おばあちゃんが編んでくれたセーターを持っていなくとも、アイスキャンディーをくわえながら自転車を走らせたことが無くとも、問題ない。
ベンジーに限らず、優れたソングライターにはそういった聴く者の、存在しない思い出を想起させる才能がある。


それと後のベンジーの曲に少なくなってしまったが、この曲にあるのがタイトルの妙。
「胸がこわれそう」もそうだが、この曲にはさらに歌われる内容とタイトル自体に距離がある。
しかし、しかし、このタイトル以外ありえない、という妙。
ちなみに、後に達也とも交流のある安藤裕子が同タイトルの曲をリリースしているが、こちらも歌詞とタイトルに関連性がなく、しかし、このタイトル以外ない、といった作品である。