男はつらいよ・寅次郎ハイビスカスの花/山田洋次


連ドラとそのドラマの2時間特番、それぐらいの格の差が、一般の寅さん作品とリリーさんマドンナの作品の間にはあると思う。
マドンナ浅丘ルリ子、ゲスト江藤潤、新垣すずこ。
夢想は鼠小僧寅吉、ロケは沖縄。


再三リリーさんが寅唯一の恋人、と思ってきたが、ついに本作、言っちゃいけないことまで表出してくる。
こんなところに至ってしまっていいのか、という局面まで至る。
寅さんは身の引き方のプロだが、彼も女心は判らない。
世帯を持つならお互い、この人と決めているところが無きにしもあらず。
幸福な沖縄での生活も、いつしか崩れる。
その主な原因は寅の遊び癖と甲斐性の無さ、女心の無理解。
仕方が無いのだろう、いくら寅さんとリリーさんでも*1
本作の二人に、男女の関係性の多くが封じ込まれているような気がする。
沖縄で病床にあるリリーに接する寅には男の愚直な優しさが、沖縄最後の晩の寅の振る舞いには男の愚直な残酷さが、満ちている。
こんな残酷で無責任な寅さんが、いままであったであろうか。
リリーを巡って喧嘩になる寅と江藤、ちゃぶ台返しでそれを止めるリリー。


リリーさんは寝るときも化粧をしているし、ずっと日傘をさしている。
それでも日焼けしてしまう、沖縄の日差し。
それを隠すリリーさんの白粉。
寅さんは衝動的にだが、はっきりとプロポーズをする。
「相合い傘」と立場は逆、リリーにはぐらかされる。
二人がまた、一つの映画を形作るのは実に15年後、「男はつらいよ」最終作となる。


とらやに帰った寅に、水元公園に行こうとしていた一同がそれを隠そうとする様はもはや悪い意味でマンネリであり、見ていて少し辛い感じがある。
ここ数作の寅の落ち着いてきた振る舞いを見ていると、寅の言うように「留守番しててね」とさくらが言っていれば騒動にならなかった、という気がする。
気を使いすぎが空回りする様、なんだか本作のは辛い。
リリーさんとの関係が毎度素晴らしいが、残念ながら、一本の作品としては「相合い傘」より個人的に一段落ちる。

*1:ここに影響してくる江藤潤や新垣すずこの描写が喰い足りないのだが