コースト・ガード/キム・ギドク

コースト・ガード [DVD]

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キム・ギドクの映画にチャン・ドンゴンが主演しているというのは、なんだか不思議な感じではある。
とはいえ、チャン・ドンゴンの方からギドク映画出演を希望したらしい。
確かな嗅覚、しかし、こんなボコボコにされるとは思わなかっただろう。
この映画ですぐ連想されるのはイ・チャンドンの「ペパーミント・キャンディー」だった。ペパーミント・キャンディー [DVD]
ただしあちらは歴史的事件を一個人の運命と結びつけた韓国の歴史を知らない者には分かりにくい映画であったが、こちらは一個人の狂気が周囲を狂気に陥らせ、環境の崩壊、国家体制への批評に至るというあくまで狂気を中心に据えた作品なので、観る者を選んだりはしないと思う。
とりあえず、狂気の表現が尋常じゃない。
それは民間人を射殺してしまうチャン・ドンゴンだけに限らない。
青姦中に恋人を射殺された女は文字通り気が狂い、その兄も怒りにとりつかれる。
気のふれたドンゴンの行動によって軍隊内部にも狂気と怒りが蔓延する。
気が狂った女がいつしか軍人達の性の対象になるのは「悪い女 [DVD]」「サマリア [DVD]」でお馴染みの、ギドク独特の男女関係に対する考えが見られる。
また、彼女が水槽に血まみれの身体を沈めたり、生きた魚をくわえたりするのは「魚と寝る女 [DVD]」以来馴染みのイメージだ。
いつしか彼女が妊娠をし…という展開はホウ・シャオシェンの「冬冬(トントン)の夏休み [DVD]」に出てくる頭の弱い女のエピソードを思い出した。


公開順のせいで判りにくくなってはいるが、本作は「悪い男 [DVD]」と「春夏秋冬そして春 [DVD]」に挟まれて製作されたものであり、本作の演出は「春夏秋冬…」以降の洗練された演出や祈りにも似た沈黙への過渡期にある。
そのため、他のギドク映画に見られない独特さがある。
ギドク映画の最高峰、では無いかもしれないが、深い余韻を残す相変わらずの充実作であ
る。
さて、残すところ国内で今見ることが出来るのは「受取人不明 [DVD]」だけなのだが、これがかなりの痛覚刺激系と聞く。
うー、見たいよーな、怖いよーな。。。