親切なクムジャさん/パク・チャヌク


復讐三部作の前二作には恨みを持っている。復讐者に憐れみを デラックス版 [DVD]
復讐者に憐れみを」ではあんまりにエグイ痛い描写の連続に数日生肉が食べれなくなったし、「オールド・ボーイ」は倫理的に許せず数日引きずりタンが食べれなくなった。
露悪趣味の極み(本当にそればっかり系のジャンルの映画は殆ど観てない)。
ペ・ドゥナを脱がせたのも観る者の神経を逆撫でしようとした以外考えられない。
それでも前二作を映画館で見たからには、これも観ておかないと、と思った次第。


単純に映画の美学的レヴェルが上がっている。オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]
タイトルバックからして、そう。
クムジャさんの住む家の内装や衣装、小物にみせるこだわりはなかなか堪らない。
美しいハードボイルドさは女性主人公ならでは。
オールド・ボーイ」の前半で魅了してくれたブラックな笑いのセンスも倍増、パク・チャヌクの映画はこの要素が一番好き。
病気に苦しむ女の喘ぎ声で自慰する隣室の男達や生タコ喰らったり空から男が降ってきたりや嫌われ者を風呂場で石鹸を使って怪我をさせてニコニコしたり子供が韓国に行きたいといって自ら喉に刃物つきつけたり。
個性的な編集術もあざとく思わない美しさ。


クムジャさんは出所後の豆腐を断る。これは韓国独特の風習で、豆腐のように真っ白い気持ちで生きていこうという縁起物。「オアシス」でソル・ギョングが喰らってたアレです。
これがとても重要になる。
真っ白な気持ちの象徴はケーキに姿を変え、クムジャさんに付きまとう。
復讐を終えた親達が食べるケーキはチョコレートケーキであった。
本作は贖罪を内包する復讐劇といわれている。
クムジャさんは自ら手を下さずに復讐劇の手伝いをし、我が子との失われた絆を取り戻そうとする。
しかし、彼女の幻想であろうか、亡くなった少年の姿として現れるユ・ジテは彼女を許したようには思えない。
それでいいのだろう。クムジャさんは“(何者かに)救われる”という概念を、大木凡人みたいな胡散臭い神父とともにキリスト教を退けることで放棄し、信用していないのだから。


ユ・ジテの他にもソン・ガンホ、シン・ハギュンの「復讐者〜」組もちょっと出るし、何よりチェ・ミンシクが凄い。
こんな極悪人で最悪な死に方をする役をわざわざ引き受けるのが凄い。
そんな下らないことに驚愕してしまう。
ペ・ドゥナカン・ヘジョンの女性陣が出ないのはヒロイン・イ・ヨンエへの敬意だろうか。
イ・ヨンエが子供の手を引いて歩くかっこよさは「グロリア」みたいだ。


東京仕込みのケーキ屋さんが「ナルセ」というのはウケた。