空中庭園/豊田利晃


余計な事件のせいでテアトル系の映画館から排除された本作、やっと観ました。
ユーロスペースも移転で上映館がばらけちゃったり、何かと可哀想な映画だった。
完成から公開への短くないブランクはあらゆる映画館で嫌と言うほど予告編を観させることで、映画の幾つかの場面の鮮度を奪った。のは余談。


建前の笑顔と秘する真実の葛藤、自己暗示の怖さ。
「仕込まれた場所」をあっけらかんと娘に話す小泉今日子、その家族のルール「秘密を作らない」ことの気持ち悪さ。
娘・鈴木杏にコンビニで話しかけられ振り返るときの、観るものもぞっとするような不快げな顔。
彼女が建前の上の笑顔と捏造された真実の上で生きていることが次第に明らかになる。
彼女は完璧な計画で完璧な家族を作ろうとする。
自ら気付かぬうちに、自らに課した「隠し事をしない」という自己暗示に精神を蝕まれながら。
常に揺れ動き、不安定で不安を誘うカメラに支えられて。
観る人によってはどうしようも無い不安神経状態に陥ってしまうのではないか。
過去の家族関係に由来する不安を掘り返していく本作の中盤は、耐え難いほど。
私は途中で気持ち悪くなった。
板尾さんが出てなかったら、最後まで耐えれたか判らない。
大楠道代は娘との過去を頭の中で捏造し、小泉は頭の中で人を殺してゆく。
「逆オートロック」の家族は夫の愛人・ソニンも受け入れて離さない。
だから彼女がバスの窓から飛び降りる瞬間には開放感がある。
瑛太の台詞を伏線として、小泉が生れ落ちた赤ん坊のように血まみれで泣き叫ぶ。
これは果たして再生なのか、ここで再生していいのか。
母親が死ななくては、と思わないでもない。
ラスト、映画は肯定的に、今まで露呈したなんかんやを受け入れた上で、それを断罪することなく終わろうとする。
こうして家族は続いていく…
監督がプレスのインタビューで言うように、それがリアルかもしれないが、映画の決着として正解なのかもしれないが、何かとんでもなく白々しいリアルだな、と思い、ちっとも救われた気分にはならなかった。


といって、この作品を否定する訳ではない。
送り手の意思がはっきりしているから、肯定も拒絶も受け入れる映画だと思う。
観る者を計るような映画だ。Nephews
ただ私の見解とは違った、というだけだ。


「青い春」のミッシェルはやややりすぎ感があったが、本作のヤマジカズヒデの神経を優しく逆撫でする音楽、UAの開放的な歌唱は良かった。
板尾さんと永作博美のやりとりが良い。
そして本作はキョン様(by中村達也)の代表作となることだろう。