秋津温泉/吉田喜重

これでこの映画をスクリーンで観るのは3回目。
何度観ても自分が引き裂かれるような気分になる。
何度観ても中盤から意味不明に涙腺がヤバくなって冷静に観れなくなる。
決して無邪気な涙を誘うようなヤワな映画じゃないのに。
もう癖になってしまってるんだ、泣き癖が付いてしまった。
スイッチは岡田茉莉子のうなじ、だ。


二人の数年ごとの再会のみを映し出すため、「脱メロドラマ」というようなことを吉田喜重が言っていたが、おかげで迫真した部分だけ、最もたる部分だけの連続だから観ることも容易ではない。
死に場を求めて秋津に来た男、彼に接し生きることを思い出させる女。
その出会い、いつしか堕落して惰性で生きる男、諦めることや後悔を初めて受け入れ死に近づいてゆく女。
二人が初めて結ばれた翌朝、長門裕之を帰さまいと付きまとい甘える岡田さんのシーンは観る度ぞっとする。
それまで二人は7年以上もの間、お互い愛し合っていたのにからだを合わせなかった。
それが破られた時、急に興味を失う男と生き生きとしだす女と。
いつかみたような風景だ。


列車の中から長門裕之は「今度は俺が見送る」と言って岡田茉莉子を列車が出る前に帰そうとするが帰れず、毎度のように彼女が見送る羽目になる。
駅の階段を下りてゆく彼女とすれ違うように駆け上がってくる女学生の一団。
ここから岡田は長門を生き返らせた少女としての生命力を失う。
彼女がこの映画一本でみせる女のダイナミズムが、素晴らしい。