男はつらいよ・寅次郎春の夢


マドンナ香川京子、ゲストハーブ・エデルマン、林寛子
夢想はチャイナタウン。ロケは紀州
アメリカ人寅さんとでも言うべきビタミン剤の行商マイケル・ジョーダンが京都に行き、そこで吉田義夫岡本茉莉の劇団に出会う。
そこで迷惑を被る観客に殿山泰司


「春の夢」と題しつつ、季節は秋。
アメリカ人マイケルさんの登場で寅さんのはっきりと「愛してる」と言わない奥ゆかしさ?が強調される。
マイコーさんはさくらに秘かに想いを寄せ、上記の通りはっきりと言ってしまうのだが。
家族であり、妹であり、母であったさくらが、一作目以来に女になる。
マイコさんに「インポッシブル」と言う、その表情にドキリとさせられる。
いわば裏マドンナになる。
本筋の寅の恋愛は展開がやや鈍いが、初期作品における寅の結婚に対する意欲、愛する人と一緒になって幸せにしたいという意欲が、この頃の作品なるともう殆ど見られない。
寅さんは片思いを全うしようとしているかのようである。
始めから叶わぬものと知った上で、いつか終わりの来るトキメキを慈しんでいるようだ。
全ての想いが思い出になるのを知った上で、恋をしている、そんな印象がある。
だからいつか訪れる恋の終焉までの短い期間を、必死にときめいて生きている。
で、本作の香川京子
相変わらず、佇まいだけで素敵。
寅が遅々として進まない離れの建設に関して幼馴染の棟梁に詰め寄る、二人の姿は壁の後ろに隠れて観客には寅が棟梁とどんな交渉をしているのか判らない、カメラはそれを聞いている縁側の香川京子に切り替わる、少し微笑んで目を伏せる。
その一連のシーンに香川京子の素晴らしさと、山田洋次の演出の的確さが出ていると思う。
しかし、香川さんがこのとらや界隈のセットにいると、そのセットのある種のチープさが目立つ。
やや、この下町を舞台にした1970年代のプログラム・ピクチャーは香川さんが納まる場所ではないようだ。
とは言え、この作品はお気に入りの一本である。