疾走/SABU


重い、息をつける瞬間が滅多に現れない映画だが、SABUフィルモグラフィーから孤立してはいない。
寺島進がトバすトラック、走る韓英恵、色っぽい中谷美紀、巻き込まれる手越拓也。
本作の結末は、「ポストマン・ブルース」を思い出す。
今までの作品を喜劇的要素でコーティングしていただけで、基本的に悲劇の人だった、と気付いた。


SABUは大好きな監督なのだが、「ポストマン・ブルース」で早々に頂点に達して、そのパターン、別のヴァリエーションを生産していた、といった印象であった。
それを打破しようとしたのが「幸福の鐘」だったのだが、寺島進の被写体としての魅力に頼りすぎで習作の粋を出ていなかったように思う。
で、そのあたりのV6主演作2本は見ていなかった。
何故か、SABUジャニーズ事務所と仲良いようだ、本作主演の手越拓也君はNEWSのメンバーとのこと。知らなんだ。
初めて主演が少年、なわけだ。
ここで明らかな変化が起きているだろうという予想は、いい方向に裏切られた。
というのは余りに重い内容ながら、抱えてるテーマは以前と同様であり、映像の力が明らかに深化しているから。
土地、を原作で設定されていたのも成功の要因であろうが、干拓地の田んぼの平面をきちんと生かしていた。
絶命する手越より、その遠く背後で燃え上がっている家が一瞬映りこむほうが感動的であったりする。
一方、あんまりにも贅沢に役者を使いすぎて生かしきれていない不満がなきにしもあらず。
ただ、SABUの演出の仕組みみたいなものは本作でだいぶ感じ取ることができる。
いつも上手い人はそのまま上手く、若い主役カップルはそのままなのだ。
「ポストマン・ブルース」の遠山景織子も結構キてたが(いや、それでいいんだが、、)、韓英恵ちゃんの芝居はちょっとなー。。。
ちょっとまっすぐ過ぎました。
彼女のフィルモグラフィーには「阿修羅城の瞳」という屈辱的汚点があるので、仕事選びを慎重にして良い経験を積んでいってもらいたい。
本作の役だって、「誰も知らない」の娘の別の人生、って感じ。
演出に熱い監督なら直したくなるのではなかろうか??
彼女自身は独特の強い存在感があるからミス・キャストではないんだが(いや、もしかしたら顔が好きなだけかも…)。
あと手越拓也の猫背(っていうか、首が前に出てる)ね。
良かったのは中谷美紀
関西弁も殆ど気にならない、貫禄の助演を見せてくれる。
嫌われ松子」、楽しみ!
全体としては、展開の多い原作の要素を(未読なんでおそらく)あまり切らずに全部投入、という感じで、こってり欲張り。
でもちぐはぐな印象無く、良くまとまっている。
年間ベスト、時期的にギリギリで入って来るんじゃないか?


それにしても、シネスイッチがあんなに10代の女子で埋まるなんて、初めてでしたわ。