アメリカ、家族のいる風景/ヴィム・ヴェンダース



言葉を交わそうとしなかったサム・シェパードサラ・ポーリーが路上に放り出されたソファに並び、二人同時に視線を画面右上にやる。
カットが変わって、山の中腹にMの文字がライトアップされているのが映し出される。
その景観は、二人の瞳が見つめたものでは、物理上、ない。
二人はその後、いつの間にか心を通わせている。
ここまで明確に小津の引用をヴェンダースがやっているのは、なんだかんだ言って初めてではあるまいか?

サム・シェパードが主演でTボーン・バーネットが音楽、西部劇、芸能ビジネスからの逃亡の旅、自己の再発見、家族の再構築・・・
ヴェンダースがディランのローリング・サンダー・レビューを思い出さないはずが無かろう。
どこかにこの両者の関係を問うたインタビューはないだろうか?
序盤で数パターン流れるオリジナル楽曲が「風に吹かれて」を彷彿とさせる旋律とコード進行なのも偶然か?確信犯か?
ちなみに第一期ローリング・サンダー・レヴュー参加のロニー・ブレイクリーはヴェンダースの元妻である。

どう聞いてもマーク・リーボーな幽玄なギターが随所に流れ、「パリ、テキサス」に於けるライ・クーダー並みの素晴らしさであったが、エンド・ロールを見たら確かにマーク・リーボー参加していた。
思えば「ソウル・オブ・マン」でもかなり重要な出演・演奏をしていたから、意外な人選ではなかった。
やっぱ、ヴェンダースの趣味って、信頼に足るなあ。

パリ、テキサス」のナターシャ・キンスキーを彷彿とさせる、美しい振り返りを演じるサラ・ポーリーは毎度のヴェンダース映画のヒロイン同様、天使であった。

ガブリエル・マンの恋人役でビッチな魅力をもたらすフェアルーザ・バークは「あの頃ペニー・レインと」でグルーピー一人を。


ヴェンダースって誰?ってな人にもオススメ出来る映画に仕上がっていた。
私は好きだ。