人のセックスを笑うな/井口奈巳

人のセックスを笑うな (河出文庫)


前評判って、ほんと漠然としたものしか耳に入れたらいけないような気がして。
「生々しい恋愛」みたいな、よくある常套句で話題で
しかも客入りまくりで、
今まで2回入れなくて3度目の正直な本作、
我が信頼する井口奈巳がどんな路線に挑戦したのか?と思いきや、
いい意味で変わらず、
『犬猫』の私の好きなカンジ、それをそのまま維持していて、
なんだかなー、心地いいなぁ、
という感じで素晴らしく良い映画時間を過ごせた。


しかし、あれだ、
この人、何でこんなに素敵に女の人を撮ることが出来るのだろうか。
『犬猫』の小池栄子は蓮実先生も指摘してたけど、
同じく榎本加奈子藤田陽子も、他のどのメディアで見るよりも魅力的でした。
でもって、本作、
永作がほんと素晴らしく可愛らしくって、
こんなヤじゃない魔性の女(なのか?)、
見たこと無いです。
というより、この人、ちょっとこういうとこあるんだよねー、で許させてしまって生きてきた
みたいな、可愛さです。
で、永作がスクリーンからはけると、今度は蒼井優の女の子性が俄然浮かび上がってくる。
こんな生き生きとしてる蒼井優、久々に見たよ。
2人ともとても魅力的で、
しかも複数男女出てくる恋愛映画にありがちなウェットなウザさが排除されている。
当然の成り行きだと思うけど、本当に素敵だと思う。


それにしてもアトリエでの永作と松山ケンイチのシーンは、
生々しくてドキドキしちゃうね。
なんか、相手の息とか唾液の匂いとか。
温度とか肌の感触とかが。
多分劇場の観客全員の脳裏に渦巻いてたと思うよ、笑。
あと、優ちゃんの好きなシーンは、
忍成修吾を背中で押し返すとことキスされて照れるとこ。
観覧車のシーンとラブホのベッドで飛び跳ねるシーンはいわずもがな。


あとは、細部に変な思い入れを抱いてしまうのも相変わらず。
ファースト・シーン、ガードレールに絡まっている黄色い風船に始まり、
エア・マットを膨らまそうとして、
次には校舎の高さくらいの風船を膨らます。
風船じゃないけど、凧も映っていた。


横切る野良犬。
蒼井優がおでこで壊すバックミラー。
リトグラフのマシン。
映画館の灰皿。
ファミレスの窓の外のロバ。
永作の下着。
鼻についたインク。
顔面に当たるマフラー。
オー、イエス
招き猫。
石油ストーブ。
最後の最後でインクの出ないペン。
信玄餅の包み紙。
半田付けされた携帯。
展覧会のお菓子。
バックする軽トラ。
怒って膨らむ鼻の穴。
松山ケンイチの乗りツッコミ。
こたつの穴。
飯を喰う猫。
ラブホテルから一人で帰る朝。
学校の屋上。


永作と蒼井優の、深夜の2人のシーンをみると、
私は本当にこの監督好きだなぁと思う。